2012年・天覧天皇賞の記録

天覧天皇賞・平成24年10月28日

 平成24年10月28日、「近代競馬150周年」記念事業の一環として東京競馬場で開催された東日本伝統馬事芸能および天皇賞(秋)競走に、天皇皇后両陛下(現・上皇上皇后両陛下)のご臨席を賜りました。愛馬の活躍を見守る私たち馬主にとって、“天覧天皇賞”として行われたこのレースは、実に栄誉ある記念すべき出来事になりました。

 天皇皇后両陛下におかれましては、「エンペラーズカップ 100年記念」として行われた平成17年天皇賞(秋)以来のご観覧で、これは同レースの創設から初めてとなる“天覧天皇賞”でした。この時、優勝したヘヴンリーロマンスの手綱を取った松永幹夫騎手が、天皇皇后両陛下がご覧になられているメモリアルスタンド前で、ヘルメットをとり、馬上から両陛下に深々と一礼を捧げた姿が、話題を集めました。
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天皇皇后両陛下
 7年ぶり2回目の“天覧天皇賞”として行われた平成24年のレースでは、日本の競馬史上に残る美しいシーンが見る者の心を打ちました。鮮やかなイン強襲を決めてエイシンフラッシュを勝利に導いたミルコ・デムーロ騎手が、天皇皇后両陛下がご覧になられているフジビュースタンド前に引き上げてきた際、下馬してヘルメットをとり、両陛下に片膝をつき、深く一礼を捧げたのです。

 この美しいシーンは、東京競馬場で観戦していた8万人の観衆の心を打ち、心からの拍手と喝采で優勝馬と優勝騎手を讃えました。これに対して両陛下もにこやかな笑顔で勝利を祝福され、盛んに拍手を送られました。

 デムーロ騎手のコメントをご紹介します。
「前回の優勝騎手(松永)幹夫さんの映像はYou Tubeでチェックしていました。優勝をすることで、僕に同じ資格が与えられたことがハッピーで、天皇陛下に何かスペシャルな形で敬意を表したいと思ったのです」
 イタリア人ジョッキーが日本の皇室に対する深い敬意を示したこの美しいシーンは、日本の競馬史上に残る“名場面”として末永く語り継がれていくことでしょう。
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ミルコ・デムーロ騎手とエイシンフラッシュ
 両陛下は皇太子皇太子妃であった昭和61年にも、英国のエジンバラ公フィリップ殿下とともに東京競馬場にお越しになられてレースをご観覧、また、「施行50周年記念」として行われた翌昭和62年秋の天皇賞競走(優勝馬ニッポーテイオー)も、やはり東京競馬場へ足を運ばれてレースをご覧になられています。

皇室と競馬との結びつき

 皇室と競馬との結びつきについて日本の歴史を振り返ってみると、奈良時代後期にまとめられた「続日本紀(しょくにほんぎ)」には、大宝元(西暦701)年5月5日に文武天皇が「走馬」をご覧になられた記録が残っています。この走馬は後に「競馬(くらべうま)」などと呼ばれ、多くの書物に登場してくるようになります。

 明治の世を迎えて、いわゆる「近代競馬」が隆盛に向かうと、皇室と競馬との結びつきもますます密接になっていきます。というのも明治天皇は、馬についての見識が高く、馬術にも堪能であられ、わが国の馬匹改良の必要性を重視、競馬を熱心に奨励されたからでした。自らも再三にわたって競馬をご覧になり、馬匹改良のために、御下賜品や御下賜金を授与されました。

 そして優勝馬はもちろん、馬主をはじめ競馬に携わる関係者の栄誉を高めることに熱意を注がれました。ちなみに明治天皇が優勝馬の関係者に対して初めて優勝賞品(金銀銅象嵌銅製花瓶一対)を下賜されたのは、明治13年に行われた「Mikado's Vase Race」においてのこと。

 このレースはやがて、明治38年に誕生した「エンペラーズカップ(皇帝陛下御賞典競走)」、翌明治39年から7つの競馬倶楽部で施行されるようになった「帝室御賞典競走」を経て、現在の天皇賞(昭和12年創設)へと受け継がれていくことになります。

 競馬史を紐解いてみると、日本の皇室と競馬との結びつきには一般に知られているよりも遥かに長く、深い歴史があります。競馬発祥の国、英国において競馬は王族が行っていたので、王室競馬と呼ばれていたことも思い出されます。
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 そのような競馬に馬主という立場で携わっていることは、私たちの喜びであります。そして“天覧天皇賞”に象徴されるように、皇室ととりわけ深い所縁を持つ「東京競馬場」をホームグラウンドとしていることは、私たち東京馬主協会の誇りでもあるのです。
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ミルコ・デムーロ騎手
 デムーロ騎手から東京馬主協会に次のようなメッセージも寄せられています。
「日本の皆さんは僕のジョッキー人生の中で特別の存在です。私は日本が大好きです。いつも応援して頂いてありがとうございます。これからもいいレースができるよう一生懸命頑張ります」